「若者のYouTube離れが進行中」――そんな刺激的な見出しの記事が注目を集めています。
プレジデントオンラインが報じたZ世代の最新トレンドによると、彼らがYouTubeのかわりに最も熱中しているのはショート動画アプリ「TikTok」だといいます。
この記事は本当なのでしょうか?
そして、もし本当なら、なぜZ世代はYouTubeからTikTokへと移行しているのでしょうか?
この記事では、Z世代の価値観の変化や、彼らが支持するアプリの特徴、そして上の世代が抱く疑問や懸念点にも触れながら、現代のSNSトレンドの深層に迫ります。
Z世代ってどんな世代?「チルい」を愛する彼らの価値観とは
まず、話題の中心である「Z世代」についておさらいしましょう。
一般的に1996年から2015年頃に生まれた世代を指し、2025年現在では10歳から29歳くらいまでの若者たちです。サイバーエージェント次世代生活研究所では、「高校生以上で26歳より若い人たち」をZ世代と定義し、調査を行っているそうです。
彼らの特徴として、記事では「チルの世代」という言葉が紹介されています。
「チル」とは「落ち着く、くつろぐ」を意味する「chill out」が語源で、Z世代は感情の大きな高まり(エモい)よりも、穏やかで心地よい状態(チルい)を好む傾向があるとのこと。
確かに、自然豊かな公園でのんびり過ごしたり、サウナやシーシャでリラックスしたりする若者が増えている印象がありますね。
また、彼らは将来への不安をあまり感じておらず、人と比較したり競争したりするよりも、自分の価値観を大切にする傾向があるといいます。
コロナ禍を経験し、リモートワークやフレックスタイムが普及したことも、彼らの働き方や人との関わり方に影響を与えているのかもしれません。
なぜYouTubeからTikTokへ?トレンド発信源の変化
記事によると、Z世代のトレンド発信源に大きな変化が見られています。2024年の「Z世代ヒットトレンドランキング」では、TOP30のうち実に13項目がTikTok発であり、これは前年の8項目から大きく増加しています。一方、YouTube発のトレンドは減少傾向にあるとのこと。
では、なぜZ世代はTikTokに惹かれるのでしょうか?
- リアルな情報とコメント欄の活気:15秒~1分程度のショート動画がメインで、加工されていないリアルな使用感や本音が詰まったレビュー動画が人気。特にコメント欄には一般ユーザーの率直な意見が飛び交い、ステルスマーケティングを見抜くための重要な情報源となっている。
- コメントのハードルの低さ:YouTubeやインスタグラムに比べ、TikTokは閲覧専用アカウントが多く、顔見知りとの繋がりも薄いため、本音を書きやすい環境がある。
- 絶妙なアルゴリズム:フォローや検索履歴だけでなく、ユーザーが興味を持ちそうな未知の動画を巧みに表示してくれる。
読者コメントの中にも、「タイパ(タイムパフォーマンス)を気にする世代ならなおのこと支持されるだろうな」という意見や、「知らないこと、分からない事があれば、AIが応えてくれる。ここまで便利になると、時間をかけることに抵抗が出てきそうですね」といった声があり、短時間で効率的に情報を得たいZ世代のニーズにTikTokがマッチしている可能性が伺えます。
一方で、YouTubeに対しては「今のYouTubeは基本的にCMを見るか金を払うかの二択だし、NGワードで不自然な編集を強いるようなポリシー規制ばっかの割には自分が出すCMの質は悪いしで、すっかりかつてのテレビと同類になりつつあります」といった厳しい意見も見られました。広告の増加やコンテンツの長尺化が、一部ユーザーの「YouTube離れ」を引き起こしているのかもしれません。
本当に「YouTube離れ」?世代論だけで語れるのか
しかし、本当にZ世代は一様にYouTubeから離れているのでしょうか?
読者コメントには、「合う合わないがあるから世代ってあんま関係ないような。30代以上でもTikTokばから見る人もいるだろうし」「私はもう他の動画サイト?についていけないのと、他人がTikTokの曲に合わせたダンスとか短い動画に興味なくてYouTubeで自分が見たいものしか見てない」といった声も多く見られます。
確かに、「Z世代」と一括りにしても、その中には多様な価値観や嗜好が存在します。
TikTokを好む層もいれば、じっくりと長尺の動画を楽しみたい層もいるでしょう。
YouTubeとTikTokはメディアとしての特性も異なり、「YouTubeは昔のテレビと同じで様々な情報を得たり、娯楽番組を楽しんだりするメディア。対してTikTokは単に『共感』を楽しむだけのメディア」という分析も寄せられています。
単純な二者択一ではなく、目的や気分に応じて使い分けているユーザーも多いのではないでしょうか。
次にくるSNS?「BeReal.」が示すZ世代の新たな志向
記事では、TikTokの次に注目されるアプリとして「BeReal.」が紹介されています。
これは、1日に1回、ランダムな時間に通知が来たら2分以内に自分と周囲の写真を撮って投稿するというユニークなSNSです。
加工ができず、「映え」を狙えないありのままの日常を親しい友人と共有するもので、Z世代の「浅くて広い人間関係は求めていない。自分の価値観を認め、理解してくれるリアルな友だちと密に繋がることができれば、それが心地いい」という志向を反映しているといいます。
これは、常に「いいね」の数を気にしたり、キラキラした自分を演出し続けたりすることに疲れた現代人にとって、新しい魅力を持つのかもしれません。
TikTokやショート動画への懸念点も
一方で、TikTokやショート動画の急速な普及に対して、懸念の声も上がっています。
- 情報セキュリティへの不安:読者コメントでは「中国発のアプリやゲーム、ショッピングサイトとか怖くて触れないけど、この世代は抵抗ないのだろう」「TikTokもアメリカで散々危険と言われてるのにみんな使ってんだね」といった、運営元企業や個人情報の取り扱いに対する不安を指摘する声が目立ちました。
- 情報の質と依存性:「良さだけがアピールされてる案件のプレゼンみたいな記事だな。せっかくなんだから多面的な評価が知りたかった」という意見や、「ショート動画に慣れてしまって長い動画を見るのが億劫になりYouTubeや以前は大好きだった映画が思うように楽しめなくなってしまっている」「気づけば1時間以上が過ぎていることがよくある。見終えた後には時計を見て、虚無感が残ることも」など、コンテンツの質や依存性、集中力の低下を懸念する声も寄せられています。
- フェイク情報のリスク:「AI動画、画像の多さで『知識がないとこれは偽物だと気付けないクオリティ』の物がかなり紛れ込んでいるのが地味に怖い」というコメントもあり、手軽に情報が得られる反面、その真偽を見抜くリテラシーがより一層求められる時代になっていると言えるでしょう。
これらの懸念点は、プラットフォーム側だけでなく、私たちユーザー自身も意識し、賢く付き合っていく必要があります。
Z世代とどう向き合う?世代間コミュニケーションのヒント
記事の最後では、X世代やY世代がZ世代と良好な関係を築くためのヒントが示されています。
「自分たちのカルチャーを知ったかぶりされたり、否定的な決めつけをされるのは大嫌い」であり、「『○○さんは、TikTokでどんな動画を見ているの?』などと、理解はできなくとも興味を持っていただくだけで『世代間の壁』はあっさり乗り越えられる」とのこと。
しかし、読者コメントには「なんで上の世代ばかりが気を使わなきゃいけないんだ?お互いに歩み寄るのが筋なんじゃないの?」というもっともな意見もありました。
大切なのは、どちらかの世代が一方的に合わせるのではなく、お互いの価値観を尊重し、相互理解に努めることでしょう。
「多様性を前提とした世の中で育ってきたので『なるほど、あなたはこういうことが好きなんだね』と認めてくれるだけで嬉しい」というZ世代の言葉は、そのヒントになるかもしれません。
まとめ:変化するSNSと、変わらない「自分らしさ」の追求
「若者のYouTube離れ」という言葉はセンセーショナルですが、実際にはZ世代のSNS利用は多様化しており、TikTokが一つの大きなトレンドとなっているのは事実のようです。
しかし、それは必ずしもYouTubeの完全な終焉を意味するわけではなく、それぞれのプラットフォームが持つ特性に応じて使い分けられていると考えるのが自然でしょう。
重要なのは、世代という枠組みにとらわれすぎず、一人ひとりの個人が何を求め、何に心地よさを感じるかを見つめることです。
TikTokのリアルさやBeReal.のありのままを共有する文化は、Z世代が「チルい」や「自分の価値観」を大切にする姿勢の表れと言えるかもしれません。
新しいSNSやトレンドは今後も次々と登場するでしょう。私たちは、その変化を楽しみつつも、情報の真偽を見極める目や、健全な距離感を保つ意識を持つことが求められます。
そして何より、どの世代であっても、自分にとって本当に心地よい情報やつながり方を見つけていくことが大切なのではないでしょうか。
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