2025年4月27日、女子プロレス「スターダム」横浜アリーナ大会。メインイベントで行われたワールド・オブ・スターダム選手権試合は、王者・上谷沙弥選手が挑戦者・中野たむ選手を破り、2度目の防衛に成功しました。
しかし、これは単なるタイトルマッチではありませんでした。
互いのレスラー生命を賭けた「完全決着敗者引退特別ルール」。この壮絶な一戦の結果、中野たむ選手はリングを去ることになりました。
なぜ二人は引退まで賭けることになったのか?試合で何が起こったのか?そして、試合後の涙の意味とは?この記事では、ファンが抱えるであろう疑問や感傷に寄り添いながら、この歴史的な一戦を深掘りしていきます。
壮絶!一瞬の油断も許されない「敗者引退マッチ」の死闘
1979年のジャッキー佐藤 vs マキ上田戦以来とも言われる、トップレスラー同士による「敗者引退マッチ」。
その重圧の中、試合は序盤から互いの意地がぶつかり合う激しい展開となりました。
上谷選手は得意のスタークラッシャーから、封印していたフェニックススプラッシュを狙いますが、一瞬の迷いから飛べず、逆に中野選手に雪崩式タイガースープレックスで反撃を許します。
中野選手は壮絶な張り手合戦から、バイオレットシューティング3連発、バイオレットスクリュードライバー、そして必殺のトワイライトドリームと、怒涛の猛攻を見せます。
しかし、王者・上谷選手は沈みません。逆に掟破りのスタークラッシャーを決められると、すぐに掟破りのバイオレットスクリュードライバーでやり返す意地を見せつけました。
勝負を決めたのは、旋回式スタークラッシャー。
完璧に決まったこの技の後、上谷選手はあえてフォールに入らず、中野選手の頭を掴んで引き起こします。
粘る中野選手に対し、非情にもカミゴェ式のビッグブーツを叩き込みますが、これもカウント2で返す中野選手。
最後は、中野選手自身の必殺技であるトワイライトドリームを上谷選手が敢えて繰り出し、”宇宙一かわいいアイドルレスラー”のレスラー人生に終止符を打ちました。
試合後の涙「お前のせいだ…でも大好きだ」上谷沙弥の本心
試合後、リング上でマイクを持った上谷選手は、引退する中野選手へ複雑な感情を吐露しました。
「中野たむのすべてを奪ったぞ! でも…なんか苦しいな。全部こうなったのお前のせいだからな。お前のせいで私はプロレスラーになった。お前のせいでケガもした。お前のせいで強くなった。お前のせいでお前を引退させることになった。全部、全部、全部お前のせいだからな!」
憎まれ口から始まった言葉は、しかし、涙と共に本心へと変わっていきます。
「でも今日、お前のすべてを奪って分かった。私はお前のことが大好きだ。プロレスを自分が始めた時、真っ暗で生きる希望がなかった私に希望の光をくれたのはたむだった。私が真っ黒に染まった時も、ずっと信じてくれてたのは中野たむ、あんた一人だけだった。私にとってあんたは光り輝く一番星だよ」
最後に中野選手から「プロレスラーになってよかった?」と問われると、「もちろん。あんたに出会えて幸せだよバーカ!」と、上谷選手らしい言葉で返答。
二人は肩を組み、涙ながらに花道を引き揚げました。
憎しみ合い、全てを賭けて戦ったからこそ生まれた、言葉だけでは言い表せない深い絆がそこにはありました。
なぜ引退マッチに?複雑に絡み合った二人の因縁
そもそも、なぜ二人は引退まで賭けることになったのでしょうか?その背景には、師弟関係から始まった複雑な歴史があります。
- 出会いと師弟関係: 中野選手が関わった「スターダム★アイドルズ」に上谷選手が参加したのが始まり。その後、上谷選手はスターダムで再デビューし、中野選手を師匠と仰ぐように。
- 師匠超えとライバルへ: 2021年12月、上谷選手がワンダー王座戦で中野選手を破り、師匠超えを果たします。以降、二人は良きライバルとしてスターダムを牽引してきました。
- 運命を変えた怪我: 2023年7月の「5★STAR GP」開幕戦。中野選手との試合中、上谷選手が高所からのダイブを敢行し左ヒジを脱臼、長期欠場に。この出来事が上谷選手の心に影を落とします。
- 闇堕ちと憎悪: 復帰後、ユニット崩壊や誹謗中傷も重なり、上谷選手は闇堕ち。ヒールユニット「H.A.T.E.」に加入し、怪我の責任を中野選手に転嫁。「お前にプロレス人生狂わされた」「お前の大切なものを全部奪ってやる」と憎悪を剥き出しにします。
- ベルト奪取と終わらない因縁: 2024年12月、上谷選手は中野選手からワールド王座(赤いベルト)を奪取。しかし憎しみは消えず、2025年3月には「敗者スターダム退団マッチ」が組まれ、これにも上谷選手が勝利。
- 引退賭けへのエスカレート: 退団が決まっても「やり足りない」と上谷選手が再戦を要求。「次は何を賭ける?」という挑発に、中野選手は「引退をかける!」と最後の切り札を切ります。これに対し、上谷選手も「お前が引退をかけるなら、私だって引退をかける!そして、赤いベルトも!」と応じ、横浜アリーナでの最終決戦が決まりました。
一部ファンからは「なぜ上谷選手まで引退を賭ける必要があったのか?」という疑問の声も上がりました。
これに対し、上谷選手は「挑戦してくるヤツが、プロレス人生すべてをささげて挑戦するって言っているのに、チャンピオンとしてそれを受けて戦わないのはダサくないか」とその覚悟を示していました。
スターダムの岡田太郎社長も「会社は悪く言ってもらって構わない。この二人の戦いをもう一度ぜひ見に来てください」と、その意義を語っていました。
「普通の人間になれた」中野たむのレスラー人生と功績
引退となった中野たむ選手。
彼女は試合前、「プロレスラーになってたむはやっと普通の人間になれた気がしてます。今が一番幸せです」と語っていました。
アイドル活動を経てプロレスの世界へ飛び込み、当初は苦労しながらも、独自のキャラクターと高いプロレスセンスでスターダムのトップへ。
ワンダー、ワールドのシングル二冠王者に輝き、ユニット「COSMIC ANGELS」を率いて人気を博し、2023年には女子プロレス大賞も受賞しました。
怪我による欠場、ベルト返上といった苦難も乗り越え、再び頂点を目指した矢先の引退。
彼女の「誰かの希望になれるプロレスラーでいたい」という言葉通り、多くのファンに夢と感動を与えてくれました。
スターダムにとって、そして女子プロレス界にとって、大きな存在を失ったことは間違いありません。
これから – 王者・上谷沙弥とスターダムの未来
最大のライバルであり、恩人であり、そして愛憎の対象であった中野たむ選手を自らの手で引退させた上谷沙弥選手。
試合後の涙と「大好きだ」という言葉は、彼女が背負うものの大きさを示唆しています。
中野たむの思い、そして彼女から奪ったもの全てを背負い、ワールド・オブ・スターダム王者として、これからどんな”新境地”を見せてくれるのか。
スターダムの頂点に立つ者の責任は、さらに重くなりました。
壮絶な死闘と、涙の結末。横浜アリーナで生まれたこの物語は、女子プロレス史に深く刻まれることでしょう。
中野たむ選手のレスラー人生に敬意を表するとともに、王者・上谷沙弥選手の今後の活躍に注目が集まります。
まとめ:涙の引退マッチが遺したもの
今回のスターダム横浜アリーナ大会で行われた上谷沙弥選手と中野たむ選手のワールド王座戦は、単なるタイトルマッチではなく、互いのレスラー人生を賭けた「敗者引退マッチ」という壮絶なものでした。
- 勝敗と結末: 王者・上谷沙弥選手が激闘を制し王座を防衛。敗れた中野たむ選手はプロレスラーを引退しました。
- 試合内容: 互いの意地と必殺技が交錯する死闘となり、最後は上谷選手が中野選手自身の技で勝利するという非情な結末を迎えました。
- 試合後のドラマ: 上谷選手は涙ながらに中野選手への憎しみと、それ以上に深い「大好きだ」という感謝と尊敬の念を吐露。二人の間に生まれた特別な絆が示されました。
- 因縁の背景: 師弟関係から始まり、怪我、憎悪、ベルト争い、そして退団マッチを経て、最終的に引退マッチへとエスカレートした複雑なストーリーがありました。
- 歴史的意義: トップレスラー同士の引退マッチは女子プロレス史においても稀であり、大きな注目を集めました。
中野たむ選手がリングを去ることは非常に残念ですが、彼女がスターダム、そしてファンに与えた「希望」と輝きは決して色褪せることはありません。「宇宙一かわいいアイドルレスラー」の功績に、心からの感謝と敬意を表します。
一方、勝利した上谷沙弥選手は、中野選手の想いと、彼女から奪ったもの全てを背負い、王者としてスターダムを牽引していくことになります。試合後の涙と告白は、彼女の新たな覚悟の表れとも言えるでしょう。これからどんな”新境地”を切り開いていくのか、その動向から目が離せません。
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